ここでは、1つの例として、タイ在住者からの日本の年金請求についてご案内いたします。

加給年金対象者がいる場合

まずタイに限らず基礎的なお話から。
請求者には配偶者がいて、加給年金の対象となるケースとします。

まず日本国内であれば、3点セットと呼ばれる書類を求められます。

①戸籍謄本 ②世帯全員の住民票 ③配偶者の所得証明

①ご夫婦の婚姻関係を証明するため
②現時点でご夫婦が同居しているか確認するため(生計同一関係の確認)
③配偶者の所得が一定の基準以下であることを確認するため(生計維持関係の確認)

③配偶者の所得証明は、日本国内であれば、いわゆる「非課税証明書」(課税証明書だが、所得額が載るので結果として確認できる)をお住まいの市区町村の地方税担当が発行していますので、それを発行してもらい提出するのが通常の流れです(今後マイナンバー化が進展すれば不要になる書式でしょう)

請求者は日本人、加給年金対象者も日本人だった場合

次に、このご夫婦がともにタイ在住、かつ2人とも日本国籍だったとします。その場合どうなるか?

①戸籍謄本については、日本国内で発行可能です(ちなみに社会保険労務士であれば、職務上請求書を用い、ご本人からの依頼に基づき委任状不要で請求可能です)

②世帯全員の住民票については、在留証明書という書式を滞在国の日本領事館が発行していますので、そこで発行してもらいます。
ちなみに在留証明書は、年金請求に用いる場合は発行手数料が無料です(すべての日本領事館でそうであるかは不明ですが在タイ日本領事館の場合)。

③配偶者の所得証明については、滞在国によります。日本と同じような書式がある国についてはもちろん代用可能です。
一方、課税額0であればそもそもいわゆる確定申告が不要、不要であるがゆえに、非課税証明(所得証明)といった書式は発行していないという国も存在します。

この場合、まず年金請求者本人がその国における確定申告をしている場合であれば、そこに配偶者の情報(無収入であること)が載っている場合があります。その場合は、それで代用可能かどうかを日本年金機構に確認を取る流れになります。

そういった書式が全くない国については、いわゆる「申立書」により、自身の所得がないことを証明する流れになりますが、要は自己申告なので、年金機構側もそれでOKですとは、はじめからは言わない場合もあります。

請求者は日本人、加給年金対象者は外国人だった場合

今度は、請求者本人が日本国籍、加給年金対象者である配偶者がタイ国籍である場合はどうなるかです。

まず①戸籍謄本については、請求者が日本国籍である場合、海外在住であっても戸籍謄本はありますから、婚姻の事実も載っており、そこに外国籍の配偶者の方についても載っています。よって、夫婦2人ともが日本国籍である場合と何ら変わりません。

次に②世帯全員の住民票に代わるもの。この場合在留証明書だけでは代わりとなりえません。なぜなら、タイ国籍である配偶者のことは在留証明書では証明できないからです。この場合タイには「タビアンバーン」という公的な書式があります。「住居(住民)証明書」とでも訳せるものであり、タイ国内では、日本における住民票的なつかわれ方をしています。

タビアンバーン(トーロー14)

・その人が所有している不動産に対して所有者は誰かを証するもの
・本人と、さらにその同居人の情報が記されている
・原本(本のような形状)は本人管理であり、その原本の内容を証する書面(いわゆる「写し」日本における住民票記載事項証明書的なもの)を、最寄りの役所(市区町村に相当)にて発行してもらうことが可能
ただし、タイ以外の国籍者の情報はここには載らない

この最後の点がポイントであり、つまり今回のケースでは、在留証明だけ、タビアンバーンだけでは、ただちに住民票の代用とはならず、この2つの書類をもって初めて、世帯全員の住民票の代わりとなりうるということになります。

そして、この書類に限ったことではないですが、タイ語で書かれているため和訳文を付けることになります。(タビアンバーン(トーロー14)の写しは、英訳文の発行も可能となっているケースもあるが、どのみち和訳文は必要)

補足

私が代行したケースでは、夫婦の生計同一関係を証明するため、夫の在留証明書と妻のタビアンバーンの関連性について説明した任意の書面を添付しました。それが年金決定に際して必須だったかどうかは分かりませんが、年金事務所職員に質問したところ「あった方がよい」との回答でした。

確定申告書(PND91)

今回は加給年金が発生するケースですので、加給年金対象者の所得証明が通常必要となります。しかしタイの場合、無収入の者に対して、日本における非課税証明書的な書類は発行されないとのこと。この場合、例えばタイにおける請求者本人の確定申告書(PND91)の写しをもって証明することができる場合があります。PND91には、結果として配偶者の所得が0円であることを証明する項があるためです。こちらもタビアンバーン同様、当局に請求すれば、希望年の確定申告時の証明(いわゆる写し)が得られます。(タイの確定申告も日本と同じく1月~12月の年単位)

ちなみに、もしこの方法がNGだった場合は、いわゆる配偶者自身による所得がないことに関する「申立書」を提出するしか手がなくなります。この方法も認められていないわけではありません。

なおタイ語で書かれた書式ですので、これにも和訳文を付けることになります。
ちなみに和訳については、特にプロの翻訳者に頼む必要はなく、請求者本人による和訳文を添付し提出することも可能です。

補足

この確定申告書の写しについても、何故添付したかについて、やはり任意の理由書を作成し添付いたしました。

あくまで年金決定に至った一例ですので、ご夫婦の状況などにより全く同じ手法が通じるとは限りません。あくまでも参考程度ということでご理解いただけたらと思います。

請求から支払いまでの流れ

2023年4月25日更新

① 年金請求書を年金事務所に提出します(郵送可)

② (疑義があれば)年金事務所から照会があります

- 進捗状況は、基本的に電話しても「受付済、ただいま審査中」以上の回答は得られませんが、 私が担当した案件ですと、「ねんきんネット」の加入状況欄が更新され、確かに事務処理は進んでいるなと実感できたことはあります。

- さらにねんきんネットの情報が更新され、海外の申請者に書面が届く前に「年金決定通知書・支給額変更通知書」の発行が確認できた例があります。 
 この場合、通知が来ないだけで、年金支給は決定したのだろう、と推測することが可能です。
 ちなみに、年金証書の発行については、ねんきんネットで確認することはできません。

③ 年金支給が決定され、年金証書が届きます

④ 年金が支払われます
 年金の支給は原則偶数月の15日(初回については奇数月15日にも支払があります)ですが、
 海外ですので、さまざまな要因の影響を受け、15日より何日か後に入金があります。
 ここで重要なのは、「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」は別々に入金があるということです。
 別日に入金されることも実際にあります。